CASE03C君の場合( 和歌山県立医科大学進学 )

同じ目線で考えながら育てる。

彼は国公立志望でS特(当時の「国公立医学部特進Sコース」に相当)に所属する生徒でした。
彼には、2次試験のための力、とりわけ物理に大きな課題がありました。

典型問題ではそこそこの点数が取れるけれども、応用問題になるとまるで歯が立たない。
物理概念の整理が追いついていない状態だったといえます。

「その日の疑問はその日のうちに」――それが彼のポリシーでした。
彼は必死に考え、どうしても分からないとなったときは、とことん質問をぶつけてくる生徒でしたので、私達(教務)や講師も懸命に応える甲斐がありました。

考え抜いた末の質問はとても効果が大きいものです。質問に対応するときにも、自分で考える力を育てていきたいと考えていましたので、解をあっさり教えるのではなく、あえて彼と同じ立ち位置から一緒に考えて行くというスタイルをとることにしました。

彼の物理は、概念の整理が必至でしたので、まずは図説を活用することにしました。図説は、受験レベルで正しいイメージを持つためにはとてもよいものなのです。

彼が何か疑問にぶつかったときは 一緒に図説をめくり、彼が正しい図を指摘するのを待ち、概念の整理に必要な内容をその場で問いかけたりもしました。

知的好奇心を刺激して楽しく伸ばす。

彼が質問を持ってくる度に、私は同じやり方で少しずつ概念整理を手伝っていきました。
ふと気が付けば、持ってきた問題への質問を超えて、あちこちと脱線しながらも、それなりに濃密な物理談義が出来ていたりしたものです。

特に、電磁気学のガウスの法則のところは納得がいかないようで、私達のところにも講師のところにも何度も足を運んでいました。

また、比較的平易な問題を適宜選択し、空き時間にクラスの皆を誘って、競争して演習をさせました。競争させることで緊張感をもたせ、 臨場感も高まり、本番での強い意識を養うためです。

そして、その直後に皆で分からなかった問題に対して、一緒に解法を考える時間として私も加わり、まるで大学のゼミのように、「あーでもないこーでもない」と議論をぶつけあったりしました。

生徒もそうでしたが、私自身も楽しい時間を過ごしたように思います。

そして、上位合格へ。

こうしたことが、物理の概念整理に大きく役立ったようです。
彼の課題だった記述模試の成績は、物理を含めて高めに安定しました。
私も彼の後姿を見て、ひそかに期待をもちました。

2次力の養成に傾注したこともあり、センター試験では決して高得点という層にはいませんでしたが、彼は、私立医学部の受験では無類の強さを発揮し、滑り止めを確保した状態で国公立入試に挑める環境を作り上げました。

彼のセンターの点数だけを見た場合には、受験者平均層を下回る点数でしたが、彼も私も、徹底して鍛えた2次力に自信を持っており、統計データによるセンター判定が当てにならないことを確信していました。確かに、彼はベストの状態で2次試験に挑める状況にありました。

そして、試験の当日。

彼が受けた国公立大学の物理の問題には、彼がこだわって考えぬいていたガウスの法則に関わる問題がそのまま出ていたのです。

周囲の苦戦を他所に、彼は物理の大問一つをあっさりと完答し、他の問題にも余裕を持って望むことが出来ました。

彼がハッキリと理解できるまで考え抜くというスタイルにこだわっていたこと、それに私達が手助けをしたことが1つの成果を生んだのです。

しかし、いくら手応えがあったとはいえ、結果が出てくるまでは不安なものです。国公立入試の合格発表日。

発表時間を1時間ほど過ぎ、そろそろ電話しようかどうか、私がそわそわとしていた時に、彼から電話がかかってきました。

彼がうわずった声で合格を伝え、教務も講師も大喜びしました。

その後、フタを開けてみれば、センターでのマイナス分を吹き飛ばし、上位での合格。彼の2次力養成が結実したのです。

受験でどんな問題が出るかなんて、そんなことは分かるべくもありませんが、受験の世界に神様がいるのだとしたら、彼には微笑んでくれたのでしょう。

人事を尽くして天命を待つ。正しい努力は正しく報われるのだと感じました。おめでとう。

※合格年度は伏せています。